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A kite dancing in a Hurricane

風の向くまま気の向くままに色々なことを。

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「The Butcher of Ark」第5巻翻訳

チャプター5:カリアン

目の前の男は、わたしより頭半分ほど上背だった。
彼の体格はがっしりしていたが、重量級ではなく、その目は漆黒に輝いていた。
しかしわたしの目をひきつけたのはその笑みだった。
それは独特で作り物めいており、この男を印象付けるものは何もないと思わせた。
子供の笑いのように純朴でもなく、あまりにたくさんの事を見てきた老人のそれのように冷笑的でもなかった。

そこに彼は居て、わたしたちはどちらも妙なものに見えていた:
わたし、やせて怒り狂った男、巨人の死体に馬乗りになって、血まみれの手、無気力な表情、足元に転がっている武器。
彼、背が高く、ハンサム、エレガントは服を身に着け、腕組みし、わたしをじろじろとながめていた。

わたしは突然大きな笑い声を上げた。
頭を振って笑い始め、それは大きく響き渡り、それは自らの置かれた状況に打ちのめされた男の笑いで、その頭が他の選択肢を残さなかったのだ。
わたしは死体から立ち上がろうとしたが、手が血まみれの床に支えを見つけられずに滑った。
崩れ落ちて死体にぶち当たり、体に暖かな血を感じた。
あなたたちは信じないだろうが、わたしの脳内をこう突き抜けたんだ。
ひどいな、ヤエル!

それはわたしを現実に戻す代わりに、意味不明な考えがわたしの笑いを助長した。
背中で転げて、腹に手を当て、息を切らせた。
その男、まだ名前を知らなかったそいつも妙な反応を示した。
初めに親指と人差し指であごをこすり、眉をかきあげた。
彼は、自分の羊が黒き守護者に噛み付かれておかしくなって飛び回り始めた農家のように動いた。
しかしその後、彼も笑い始めた。
わたしや、わたしの打ちのめされて混乱した心には、状況はますます妙な事になっていった。
わたしは、肺がおかしく成りそうなほどに笑いがひどくなって、息が切れてしまいそうだった。
そのうち、熱い涙が頬を流れ落ちると、かすかな音を聞いた。
視界は真っ暗になり、意識を失った。

~

わたしは口の中の金臭さで目が覚めた。
まぶたは重く、くっついたような感じで、目を開けると視界はぼやけていた。

わたしは、自分が森の中に居て、そこは暗い松の木々に囲まれた岩の崖の下であった。
避難場所の周囲では、雨が降りしきっていた。
腕の長さほどに燃え盛っている炎だけが、わたしが寒く感じる事から守ってくれていた。
わたしは周辺をちゃんと確認できるだろうと見渡そうとしたが、後頭部を刺すような痛みが襲った。
息苦しくなり、とっさに唇をまぶたを押さえた。

"こんばんは"、突然近くで話しかけてきた声が聞こえた。

わたしは怯えて、もう一度見渡そうとしたが、もっとひどい痛みに襲われただけであった。
今度はかすかな叫びが口から飛び出した。
わたしの隣の声がそれで笑った。
それから誰かが立ち上がり、わたしの方へ歩いてくるのが聞こえた。
そのうち、一組のブーツが見え、誰かがわたしの前に膝をついた。

あのしゃれ男だった。
彼は髪を束ねて長いあごひげを持っていたので、エレガントな服を着ていなければ、アラジアル人の修道士という感じを与えていた。
"こぶのことはすまないね"、彼はそう言って、わびるように微笑んだ、"ちょっとやりすぎたようだ。"

訳もわからずその男を見た。
前日の記憶は、おぼろげでかすかだった。
居酒屋...あの二人の野蛮人による屈辱。
復讐計画...馬小屋。

古い木を思いっきり直撃した稲光のように、あの光景がわたしを襲った。

わたしは彼を殺した。
『彼を虐殺した。』

手で口を押さえ、全身が震えるのを感じた。
昨夜の出来事の細かな部分がハンマーのようにわたしを襲った。
あの野蛮人がどうやってわたしを捕まえて、地面に叩きつけたか。
何度も何度もブーツでわたしを蹴りつけてきた痛み。
燃え盛る怒りの暴発。
短剣が彼の背中に突き刺さる最高の音。
彼の戸惑った表情、慈悲を求める静かな願い。
わたしの激高、満足、刺すたびに強くなっていく恍惚感。

前触れ無く、わたしは服の上に吐き戻した。
咳をして、吐き気を覚え、目に涙が浮かぶのを感じていた。
虐殺だ。
お前は彼を虐殺した!、それが脳内に響き渡った、何度も何度も。
わたしはその考えにとりつかれ、完全に目の前の人の存在を忘れてしまっていた。
ようやく意識を失った瞬間を思い出した時、わたしは不安そうに彼を見つめた。

彼はいささかも動いておらず、目の前に膝をついたままだった。
その口は微笑んでいたが、目は真剣で、熱心ですらあった。
どういうことだろうか?
彼はわたしを気絶させたのか?
間違いない...そうしてここに連れて来た。
しかし...なぜ?

彼は、わたしの目からその質問を読み取ったかのように、動き始めた。
頭を振って、わたしの寝ている場所の隣にある小さなバッグを指差した。
不安そうに彼を見ると、彼の笑みは大きくなった。

"どうしたって言うんだ? わたしがダル・サルガードの幽霊に見えるかな。"

わたしは少し緊張を感じていた。
まだ言葉が口から出てこず、するとその男は唇をすぼめた。

"君の荷物の中身を見るといい...自分を汚物で汚すのが好きでないならな。"

とにかく今は、ためらいながらも彼の提案に従って、青と白で刺繍されていた大きな布を見つけた。
わたしは、これまで手にした事がなかった物を受け取った子供のように、また彼を見た。

彼は疑わしそうに眉間をかきあげた、そして、わたしの行動がおそらく彼には奇妙だったんだろうと思えた。
本当に奇妙なのだろうか?
結局のところ、彼はわたしをここに連れて来た当人なのだ。
そして彼は、何が起きたのかを知っている。
しぶしぶとわたしは足を組んで、ローブから、昨日使い果たしたウィスパーツリーの樹脂の残り粕をぬぐい始めた。

その男はわたしの動きを余すところ無く注意深く観察していた。
それから立ち上がって、パチパチとはぜている炎の方へ向かった。
わたしは火にかけられているものがあるのに気が付いた。
飲み物だ。
胆汁が口をひどく苦く感じさせており、喉はピナクル砂漠の砂丘さながらに乾いていた。
少しだけ空腹を感じたが、昨日の出来事を思い出すと、すぐに消えてしまった。
男が釜から何かをすくい取ると、かすかな風にのってシュガーミントと蜂蜜の香りが鼻に運ばれてきた。
すると彼が、それぞれの手に傷だらけのカップを持ってわたしの方へやってきた。
一つをわたしによこして、切り株に腰を下ろした。

"初めてひどい目にあったというだけの事だ。"

わたしはたじろいだ。"では...?"

"わたしのことをちゃんとわかってくれているのですね。"

少しの間、彼の視線はさまよった。
それから彼は頭をわずかに震わせ、またわたしの方を見た。
"これは失礼した。"
彼は自分の胸をこぶしで叩いたが、それは軍人の敬礼で、わたしの目には彼という人には不似合いに思われた。

"わたしはカリアンだ。"
彼は期待しながらわたしを見たが、返事をしなかったので、尋ねてきた:"あなたは誰かな?"

初めは、私は偽名を伝えるつもりだったが、それはやめにした。

"ヤエル。皮なめしの息子です。"

男は手袋をはずして伸ばしてきたので、わたしは彼の手を握った。
彼の手は暖かくしっかりとしていた。

"そう、ヤエルか。君に会えてとてもうれしいよ。"
彼は微笑んで、瞬きもせずにわたしの目をまっすぐに見てきた。
わたしは背を駆け抜ける畏敬と畏怖を感じた。
なんという人だろう。
先日彼の隣に座っていた女性のことを思い出した。
今なら、わたしにもあのような情熱を持って彼を見ている彼女の事が理解できる。

どうにかこうにか、わたしは頭を下げた。
ちょっとだけ、わたしはカリアンの外見や態度、親しみを感じる振る舞いがうらやましかった。
頭の中をぐるぐると無数の疑問があるにも関わらず、この見知らぬ相手を好きにならずにはいられなかった。
間違いなく、こんな経験をしたのはわたしが最初ではないだろう。
彼は運命そのものに挑戦できるであろうほどに強力に思われる、一種の危険な雰囲気を放っていた。

手を離した彼は、お茶を手にした。

"さて。どこから始めようか?"

わたしは理解できずに彼を見た。

"始める...何を?"

"質問だよ、もちろん" 彼はにやりと笑った。
"何もないと言わないだろうな。"

彼は確かめるようにわたしを見た。
"それともわたしから始めようか。どこから来たんだ、ヤエル? 君はこの辺りの人には見えないぞ。"

"わたしは...小さな村から来たんです"、わたしは用心しながら答えた。カリアンが眉をひそめただけだが、"フォッグヴィル"と付け加えた。

"フォッグヴィル...あまり面白い場所ではなかったな。"

今度はわたしが眉を持ち上げる側だった。"フォッグヴィルを知っていると?"

カリアンは素っ気無く手を振った。
"一度立ち寄った事は...仕事で。心地よい居酒屋があった。"彼は微笑んだ。"それに少しだけ美しい女性も。"

"...ええ、まあ。"
マルファスの名にかけて、この男は何を求めているのだろう?
昨日、彼はわたしを現場で捕まえた。
彼は知っている。
そして今度は、ミードのマグであふれた居酒屋で出会った二人のハンターのように腹を探り合っている。
そしてわたしは、度胸や勇敢さからではなく、もはや口にしていなかった言葉に耐えられなかったので、先に進める事にした。

"ええと...カリアン。"わたしは喉につっかえを感じ、すぐにお茶を飲んだ。
とても熱く、唇をやけどせずに彼はどうやってこれを飲んだのかとても気になった。

"どうやってわたしはここへ来たのだろう?"

カリアンは情け深く微笑んだ。
"わたしがここに連れて来た。"
彼はわたしの顔を見て苛々しているのに気付いたようで、付け加えた:
"...君を気絶させた後にね。まあ...君はあの状況に対処するには問題があったからな。"

しばしの沈黙があった。"わたしは死体を片付けたんだ。"

その言葉はハンマーのようにわたしを打ち付け、またわたしは胆汁がせりあがってくるのを感じた。
しかし今度は、吐き気を抑える事ができた。
結果、わたしは舌にひどい感覚が残った。
わたしは咳をして、良くわからないまま男を見た。
彼はこんどのことはいずれも完全に普通の事だと言うように話していた。
しかしとんでもない、そんなはずはない!
わたしは犯罪を犯した、そしてその犯罪以上にやり口が最悪だった。
わたしは化け物だ!
神に見捨てられた化け物なんだ!

彼はわたしの心を読んだかのように、少し前かがみになった。

"今何を考えたのかはわかる、ヤエル。君は罪悪感を感じているのだね? 自分が化け物か何かのようだと?"

不安なまま彼を見た。
そして視線をそらせたが、彼はそれを肯定と受け止めたようだ。

"そんな無意味なものは忘れてしまえ。君のしたことは正しい行いなのだ。"

悲しげな笑いをわたしはこぼした。"正しい行いですって?"

"そう。ですが待って下さい。" 彼は親指と人差し指であごをこすり、火を見やった。

"君に話をしよう。そうすれば理解できるだろう。"

わたしはうなずいたが、それは余計な事だった、彼はもう話し始めていたのだ。

"かつて、ある家族が居た。5人家族だった。女性、二人の夫、そして二人の子供たち。"
彼は、わたしは額にしわを寄せたのに気付いたようだった。
"そして彼らはキラからやってきた。キラにおいては、彼らは異なった形で生活をしているのは知っているな?
 単にカップルだけではなく、大きな家族で生活していた、サークルなどと呼ばれているものだ。とにかく..."
彼は少しだけ話を止め、お茶を飲んだ。
"...この家族はついていなかった。一人の夫、ケシャーンは首都のアル=ラシーム郊外にあるサトウキビ農園での仕事を失ったところだった。
妻は、裕福な商人のとこで機織として働いていたが、その商人が財政難に陥った事で仕事を失った。
結局のところ、アル=ラシャームでの状況は厄介だった。
通りは危険で、肉蛆病は猛威を振るっており、二人の子供を抱えてサークルで生活していた人々にはいい時代ではなく、ポケットに1ペニーも無かったのだ。
だから彼らはよそで幸せを見つける事に決めた。"

彼の目はあらぬ場所を見やった。
"新しい世界、新しい生活。そうして" - 彼はまたわたしの方を向いた -
"彼らはエンデラルへの旅に残されたお金を費やした。しかし彼らがアークに到着した時、そこでの生活は想像していたものとはまったく違うことに気がついた。
異人地区でさえ彼らには敷居が高く、夫の一人以外誰もエンデラル語を話せなかった。それゆえ、彼らはアンダーシティに向かった。"

ほんの少しだけ、彼の琥珀色の目に物悲しさを見た気がした。"君はアンダーシティを知っているか、ヤエル?"

"あ...ええ、聞いたことはあります。"

彼はうなずいた。
"そう。まあ君も、そこが家族にとってほっとできる場所じゃない事はわかるだろう。
通りは危険だ。恐喝と殺人が日常茶飯事。そこはスラムであり、もっとも皮肉な事は、貴族たちが仮面舞踏会を開き、道徳と倫理について哲学しているアークの貴人地区の真下に通じている洞窟に作られているという事実だ。"
最後の台詞の際に、怒りがカリアンの目を燃やした。
それは少しだけとどまっていたが、現れたのと同じくらいすぐに消えてしまった。

"とにかく、その小家族は用水通りと呼ばれた路地にある、手のひらサイズの箱型の家の一つに移り住んだ。
その通りはその名にふさわしかった - 臭くて、暗くて、狭い。とはいえサークルが想像していた新しい始まりとはまったく違ったにせよ、3人の親たちは落胆しなかった。
彼らは障害についてわかっていたので、それを乗り越える事を決めた。

"それはさておき、イルランダへの信仰が彼らを励ました。
一つの部屋だけで出来ていた小さな家は布で区切られ、彼らは祭壇を設けた。
毎晩、彼らは女神に祈り、それによって勇気と強さをもらった。
実際...ケシャーンが街の外の農園に雇われた時、事態は良くなる様に思われた。
さて、こういうことは君には理解できないかもしれない。
ただ言わせてくれ、アンダーシティの者がハートランドの農夫と働ける、まともで誠実な仕事を見つけるよりも、ヴァティールが読み書きを学ぶ事の方がありそうなのだと - さらに最悪な事に、その者が黒い肌をしているとなるとな。

"ケシャーンはこれを知っていた、というのも彼やサークルは彼らの起源が類の無いものであるがゆえに彼らを憎む者が居る事を学んでいたからだ。
そしてそれは上層地区の人に限った話ではなかった。隣人でさえ、通りで彼らに'くせぇんだよ'とか'くろんぼ'などと叫んだ。
世界はこんなものなのだよ、友よ。人々は知らないものを恐れる - 複数の親をもつ家族、エターナ、黒き肌を持つ人。
あらゆる異国のものは彼らに危険だと。

"しかしケシャーンはより一生懸命に戦った。毎朝日の出よりずっと前に起きて、働いている農園までの耐え難い道を歩いた。太陽が沈んでさらに遅い時間に帰ってきた。
仕事は大変だったが、彼は家族、特に二人の子供たちによりよい生活を与える機会に感謝した。"

カリアンは話を止め、焚き木を拾って火に投げ入れた。それから続けた。

"しかしもちろん、事態は変わってしまった。
アークに住む高貴な人々はすべからく、まあ...そう、'派閥'があった。
それ自体が砦と呼ばれ、彼らが言うところの、伝統的価値観の'拠り所'と理解できるだろう。

"ある時、彼らはクロンボのうわさをかぎつけた、そいつは農園の、一生懸命働く正直者のエンデラル人の仕事を奪い去ったという。
砦のメンバーはやるべきことを知っていた。
ある晩、ケシャーンが用水通りの小さな家に戻った時、何かがおかしい事に気付いた。
それが何かはわからなかったが、ただ、何かが息子を降りかかった事を感じた母親のように察した。

"正確に何が起きたのか、家に入ってわかった。
全員死んでいた。二人の子供、リリーエとガラル。もう一人の夫のヤシェーク。
それに妻のザミラ。
隅で見つけた子供たちは一緒にしゃがみこんで、血まみれの布でつつまれていた。
リリーエは喉を、ガラルは頚動脈を切られていた。
ヤシェークは斬首される前に胸を何度か刺されていたので、抵抗したようだった。
ザミラはテーブルに横たわっていたが、足の間の血が、殺される前に何をされたのかの明白な証拠だった。
ケシャーンは叫びたいと思った途端、背中に燃えるような痛みを感じ、地面にくず折れて、死んだ。"

カリアンは目を瞬きさせることなく、物語の最後の部分を語った。
私は唖然として開いた口がふさがらず、ただ彼を見ていた。
彼はまた、瞬きもせずにわたしに視線を返してきた。

"さて、ヤエル、君はわたしの話をどう思う? 好きかな?"

"それは...本当なのですか?"、適当な返事が見つからなかったので私は尋ねた。

"ええ、本当です。"

わたしは手がかりを求めてカリアンを見た。
彼はいったい、何を期待しているのだろうか?

"恐ろしいです。"

カリアンはうなずいた。
"その通りだ。では、わたしたちが昨日殺したあの二人の男が砦のメンバーだったと言ったらどうかな?"

わたしはびっくりした。"何ですって?"

"今や池の底で死体となっているあの二匹の馬鹿どもだよ。"
わたしは、自分が脳裏でそうしていたように、彼らに対してまさに同じ言葉を使った事に気がつかなかった。
"やつらは砦のメンバーだった。そしてやつらがキラ人一家を殺したのだ。もちろん、大義のためにだ。"
また、彼の目に冷たい怒りがあった。

"どう答えたものか"、自分の仕業だったにせよ、そう答えた。

カリアンは目を細めた。
"おお、そうだろう。サルボーとアドレーユ・ミサルだ。彼等はエンデラル北部の裕福な統治者の息子たちで、殺人者だ。"

一瞬のつかみがたい間に、わたしは勝ち誇った記憶に包まれた。
あいつらは死んで当然だ!
わたしの口の端が切れた。
しかしそのイメージが目に浮かんでくると、あの恐ろしい記憶がよみがえってきた。
あの男を刺した時に感じた、あの男を虐殺した時に感じた歓喜の記憶。
あの血...

"でもわたしはそんな事知らなかった。たとえ..."
わたしは言葉を途中で止めて、下を向いた。
どうしたらわたしの感じたものを表現できたのだろうか?

しばしの沈黙が訪れる。
わたしが質問したいと思ったまさにその時、カリアンは予期せぬ事をした。
何が起きたのか気付く前に、彼はわたしのすぐ前にいて、我々の顔の間はわずか二本の手の幅しかなかった。
わたしはギクリとしたが、カリアンの視線にある何かに麻痺させられてしまった。
まるで蝋人形さながらに動けなかった。
つかの間、彼の変化に気付けなかったが、すぐにそれとわかった。

彼の目は怒りで燃えていた。
初めは焚き火を反射しているのかと思ったが、その火はカリアンの背後で燃えているのを目にした時、実際に彼の目がその色に変化したのがわかった。
それは、火が完全に燃え尽きる直前のろうそくの芯のごとく、まるで輝いている石炭のように思えた彼の表情は、ここ半時間ほど持っていた快活さを失ってしまった。

それから彼は、静かだがしっかりと明りょうに話し始めた。
声の調子はわたしの背中にぞくぞくとした恐ろしさを感じさせた。

"あの屑どもは死んで当然だ、ヤエル。やつらは腐りきっていたのだ。"
彼は決定的な一言を口にするそぶりもしなかった。
"わたしが赤牛亭にいたのは、やつらを殺すために選ばれたからだ。君はわたしより先んじて、わたしや世の中のために奉仕したのだ。"

わたしはどこから力を得たかわからないが、死に際の告白さながらにささやくような言葉で答えた。

"でもわたしはあれを楽しんだんです。"

嫌悪感がまたよみがえってきた。
重苦しい恐怖、恐ろしい事をしたことを知った者の重荷。
わたしの肩は落ち込み、わたしが殺人の間の恍惚感を認めた時のカリアンではなく、マルファスのように頭を垂れた。

しかしカリアンはそうはさせてくれなかった。
右手を肩に置き、左手でわたしの顔を持ち上げ、彼をまっすぐに見るようにした。
そうして彼は話した、ゆっくりと、はっきりと。

"わかっている、ヤエル。なぜだかわかるか?"

彼はわたしに返事をする時間を与えなかった。

"君は、彼らがした事を感じているからだ。君は彼らの犯罪、罪悪感を感じているのだ、そして恍惚感は君の勇気に対する報酬なのだ。"
彼は動きを止めた。"それはやつらの罪という果実なのだ。"

そして、ほんのわずかな、はかない時は終わった。
カリアンの目の輝きは消えた。
彼は元のように腰掛けると、その表情はわたしに、なぜわたしの心がわたしをだましていたのかと疑問に思わせた。
彼は黙っていた。

しばしの沈黙の後、わたしは本当に聞きたい事もわからなかったが、重要な質問をした。

"なぜ"?

しかしカリアンは理解した。

"君が特別だからだ。君の体に流れる血は我々のものと同じだ...我々兄弟姉妹のものと。"

困惑したまま彼を見つめた。
わたしの理解力はもう残っていなかった。兄弟姉妹?
わたしはもうついていけなかった - わたしのまぶたは重く、体はくたくたで弱々しかった。

カリアンは気付いたようだ。

"この先長い旅路がある。君が知る必要のあることは全て説明しよう、だが今は眠るといい。"
前に彼の目にみた輝きが瞬時に戻っていた。"夕暮れも近い。"

~

翌朝、わたしたちはアークへ出立した。

あなたは、なぜわたしがこの奇妙な男についていったのか、自問するかもしれないが、わたしにはその問いに対して明確な答えを持ち合わせていない。
確かに、もしわたしが朝のどんよりした霧の中をこっそり立ち去っていたら、多くのことが違う結果になっていただろうが、わたしの疲労状態がそうはさせてくれなかった。
わたしが留まった理由は他にも、おそらくここ一週間ほどの間にわたしに起きたあらゆる出来事が、妙な事にわたしはよく知っているように思えたからだ。
おそらくは、カリアンの言葉は、わたしには自分に説明できない催眠効果があったから、とにかく離れられなかっただろう。
それはやつらの罪という果汁なのだ。
無数の質問が脳裏にとりついていた。
そうは言いながらも、わたしが犯した殺人はよい事であり、正しい行いであったという知識は、わたしのとり付かれていた心がしがみつけるわらとして役に立った。
男を殺したことには独特の感情を抱いた。
若い兵士や衛兵は、名誉や栄光について派手な夢を抱いている。
彼らは、よこしまな人物の胸に剣を突き入れることについて考える時、それは素晴らしい感じになると信じている。
たとえあの経験が私にとって素晴らしいものだったとしても、その後は違っていた。
私の状態は、無感情と、罪悪感や嫌悪感でわたしを一瞬でいっぱいにする啓示の間を行き来しており、それはマイアー海岸の秋季の大波のようにわたしを打ちつけていた。
このような時に、人は殺人を正当化できるかは疑問だった。
とはいえ、もっと殺人行為をしたならば、そのような疑いは減っていくだろう。
冷静さは、人生の見方が平凡になるまで大きくなるものだ。

しかし当時、この考え方はわたしには馴染みないものだった。
暮れる太陽の光の中、カリアンはわたしに熱々の湯気の出ているオートミールと真っ赤な野生のベリーを用意してくれた時、それをスプーンで食べる前にも吐き気に襲われたほどだ。
わたしは、カリアンの目にある良心の呵責のかけらに気付いていただろうか - それともあれは楽しんでいたのだろうか?
わたしにはわからない。

わたしたちが荷物をまとめている間に、彼にもう一度昨日の話の意味を聞いてみた。
彼はただかぶりを振って、"火"の意味は会話だけでは学ぶ事はできない、例えるなら泳ぐことが水の不変性についての論文を読む事からでは学べないように、とだけ言った。

そうして、まったく異なるタイプのわたしたちは共に、伝説的な首都へ向かって出立した。
彼は着飾っていて、ハンサムで、常に自信のうかがえる笑みを浮かべていた。
わたしはくたくたの服を着て、鉤鼻で、何が起きているのかわかっていない困惑した面持ちをしていた。
旅の最初の二日はひどいものだった。
わたしはほとんど食べず、多くの時間、わたしの手に血が見えたり、鳥の鳴き声の中に人が死ぬ時の悲鳴が聞こえると思った。
沈黙もわたしを落ち着かせなかった。
気にしてはいけない。

しかし三日目になって、物事は良くなり始め、カリアンと出会ってから初めて、立ち止まったり考えをさまよわせてもあの活力を奪う吐き気を感じなかった。
もちろんわたしの精神状態は楽しいとは程遠かったが、奇妙な事に、フォッグヴィルから出立した時よりも良くなっていた。
これには単純な理由があった:恐怖がおなかから消えていたのだ。
あるいは、もっとよく言うなら、さながら野生動物がただ良い食べ物を食べたかのようにそれをなだめたように感じていた、とはいえこれからかもしれないが。
わたしは正しい方向に進んでいた。
この言葉が心に響くとはなんと奇妙な事だろう。
それでもやはりわたしは大丈夫だと感じていた。
あたかも、地平線に光を垣間見たかのように、光はわたしの人生全てに差し込んでいたはずだ。

わたしの感じていた罪悪感も減り始めていた。
わたしがカリアンの物語を確認する術はなかったが、それが正しい事はわかっていた。
傲慢な顔に卑劣な声 - あの二人の男は邪悪だった。
『堕落していた。』
そしてケシャーンの家族の後にも多くの犠牲者がいた事だろう。
そんな事を考えれば考える程、これらは心の中で真実だと鳴り響いた。

歩き続けている時、カリアンはもっと多くの他の事も話してくれた。
かなりの数が彼の過去の物語だった。
今だから彼はネーリム出身だとわかるが、それは彼のかすかなアクセントが事実だと説明していた。
彼は北部王国の首都カービートで育った。
中部王国同様、そこはバラテオン議長の統治下にあったが、カリアンは北部分離主義者と議長との間の内戦が今後十年以内に差し迫っていると想定していた。
エンデラルへの移住には多くの理由があった、しかし厳しくは無いものの断られた時の表情で、わたしが彼の過去のこの点を話す段階ではないことを示していた。

一週間の旅路を経て、わたしたちはアークへ到着した。

わたしはその描写でインクを無駄にしたくは無い。
エンデラルの首都のことは良く知っているだろうと確信しているし、わたしがその景観にどれほど圧倒されたかも想像に難くないだろう。
最初に小さな山の岩棚から見て、夕日の輝きの中に沈む街を見るのに数分を費やした。

"すごいだろう?"、わたしは隣からの声を聞いた。カリアンだった。

わたしは視線をそらさずに何かをつぶやいた。
彼は笑った。

"じっくり見るといい! 時には、最初の時こそが最高なんだから"、彼はそう言うと、深さが400アームもある崖の端に座りこんだ。
彼に目を向けると、目を閉じており、顔に夕日がさしているのが見えた。
また、わたしはうらやましさが沸きあがってくるのを感じた。
もし若い女性が丘を登ってきたら、吟遊詩人の歌に出てくる英雄だと考える事だろう。
しかし同時に、カリアンは目立とうとしていない事を知っていた。
彼は単にこの景観を楽しんでいるのだ、この瞬間と太陽の光を - わたしが人生で培ってこなかった才能だ。

~

街の警備兵に証明書を見せて、入れてくれるよう頼んだ時にはもう暗かった。
わたしたちは悪天候のためにドゥネヴィルの港に入らざるを得なかったアラジアルからの商人のふりをした。
すぐに書類を確認して、入場を許可してくれた。
大きなゲートが背後で閉ざされ、落とし格子が大きな音を立てながら閉ざされると、司祭としての過去の生活への帰還について残されていた考えは消え去った。

わたしたちは"ダンシング・ノマド"という居酒屋に立ち寄った。
カリアンは自分の大きな財布を開き、サトウダイコンのシチューとライ麦製黒パン、それにカービートのとても値の張るビールにわたしを招いた。
今度はほとんど話をしなかった。
代わりに、美しい赤い髪の吟遊詩人の歌を聞いていた、その甘美な声は彼女の華奢な体格とはまったく対照的だった。
彼女は、"齢重ねたる男の歌"、"道を外れし放浪者"、それに"シルバーグローの侍女"などといった古典的な曲を歌った。
カリアンが大きな声で最後の曲に合わせて歌い始めると、わたしは不安でうつむいた。
人々が、彼の上手いが絶妙とまでは言えない歌を拒否するわけでもないことに気がついて初めて、わたしもそこに加わり、根拠の無い恥ずかしさは消えうせ、ますます居心地の良さを感じた。

わたしたちは遅くまでバーに残った。
他に5人の客だけになったとき、わたしは口まで出掛かっていた質問をした。

"これからどうするんです?"
わたしはアルコールと数時間の大声でボーっとしていたので、小声で話した。

カリアンの視線はわたしに向いたが、わたしが不安そうに地面に視線を落とすまでそらそうともしなかった。
わたしは、カリアンが息をのむようなかすかな笑いらしき音を出すのを聞いた。

"今は丸太のように寝るんだ。そして明日" - 彼の目が瞬間輝いた - "最初のレッスンが君を待っている。"

彼の言葉の意味するところがわからなかった。

"最初のレッスン?"

彼は微笑んだ。
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